~プレーヤーは社長や社員。会計事務所はあくまでコーチだと心得よう~

密室で経営計画をつくるな

決算書など会社の資料を社長が会計事務所にもち込み、パソコンを前に税理士さんが売上や利益をはじめ、さまざまな目標数倍を決めてしまう―――。こういう経営計画のつくり方は、絶対にしてはいけません。
まず第一に、経営計画は会計事務所でつくるものではなく、社長と社員が一緒につくるものです。その中で全社的な戦略や目標を社長が決めるのであって、会社経営に携わっている社長を差し置いて、会計事務所が勝手に数字目標をつくることは本来不可能です。
会計事務所が勝手につくった、細かい数字の並んだ売上計画表などを社長が受け取っても、何の意味もありません。それこそ社員はもちろん、社長自身も、経営計画を二度とみなくなってしまうでしょう。基本は、会社内で予算数字をつくるべきです。売上計画などは、決算書のように1年で終わりということではありません。毎年引き継いでデータを蓄積する必要があるので、経営計画専用ソフトなどを導入するのもよいでしょう。

会計事務所のアドバイスは必要

会計事務所はあくまでもコーチ役で、実際に試合をするのは社長や社員です。社長や社員のための経営計画ですから、経営計画をつくるにあたっても、会計事務所へ行くのでなく、向こうから会社に来てもらいましょう。
とはいっても、会計事務所の意見も聞かずに、数値に関する経営計画を立ててしまうのは危険です。コーチを無視して選手が一方的に目標やトレーニング方法を決めても、それは素人の考えややり方でしかありません。
経営計画は、前年の実績をみながらつくるものです。しかし、決算書をみてみると、利益ひとつとっても何種類も書いてあり、さらに仕入や販売管理費などさまざまな数字がでています。この複雑な書類をきちんと読みこなせる社長がどれだけいるのでしょうか?
それを整理して、説明してくれるのが税理士の役目です。ですから「労働分配率って何ですか?」など、わからないことはどんどん聞きましょう。ただし、経営計画の策定においては、会計事務所が売上や仕入原価、労働分配率などの数値を単独で決めるのは間違いだということを肝に銘じておきましょう。

Point
会計事務所は数字の専門家であって、
経営の専門家ではない。
経営のヒント
会計事務所は「会社のお医者さん」

経営計画を立てるときに会計事務所に相談するのは、健康診断を受けにいくようなものです。決算書など会社の実績を示す数値にあたるのが、血液検査などの検査数値です。

たとえば「中性脂肪が多いですね」とお医者さんに言われたら、「中性脂肪って何ですか」「なぜそれがよくないのですか」と聞けばいいのです。そうやって教えてもらえれば、理解できるようになるのです。健康を保つために医学の知識が必要なように、経営をするために会計の知識が必要となります。それを会計事務所に遠慮せずに聞けばよいのです。

2012年 5月 6日

~全社の戦略や目標は社長が、部門の戦略や目標は幹部が決める~

「やめる決定」も社長が下す

経営計画づくりにおける社長の役割は、全社的な方向性や戦略(誰に対して何をどうやって売るかなど)と、数字目標(利益目標額など)を決めることです。これができるのは社長だけです。
もし多数決で会社経営ができれば、社長にとってこんな楽なことはありません。でも、「この商品が売れると思う人は?」と聞いて9割が賛成したから売れる、というものではありません。1割しか賛成しなかったけれども、ヒットした商品はいくらでもあります。
もちろん、社員を含めていろんな人の意見を聞くことは大切です。しかし、自分の経験や会社のミッション、ピジョンを踏まえて、最後に決断を下すのは、やはり社長です。ですから、経営計画細目を多数決で決定するということはあり得ません。
もうひとつつけ加えれば、「やめる決定」を下すのも社長の役割です。何かを始めようという提案は社員も出しやすいのですが、商品の販売中止とか、部門や部署の廃止を社員からはいい出しにくいものです。ましてや、その決断を下すことは無理です。こういう「マイナスの決定」は、社員でも幹部でもなく、社長自身がしなければなりません。

何をするかを部門単位で決める

社長が全社的な方向性や戦略と数字目標を決めたら、次は幹部社員に発表します。そして、社長と幹部たちの問で意思統一ができたら、全社員に来期の経営計画のもととなる経営方針を発表します。これを事業年度が始まる2~3カ月前に行います。
幹部は、まず全社員に経営方針を発表する前に、社長が示した全社的な戦略や目標に基づいて、自部門の戦略や目標をとりまとめます。このときに他部門の幹部とも相談します。
次に各部門の予算がまとまったら、幹部は社員と一緒になって自分たちの個々の目標ややるべき行動を考えて決めていきます。ここでは幹部がリーダーシップを発揮します。
リーダーシップというのは、目標に向かって社員のモチベーションを高め、動機づけをしていくことです。もちろん社長は全社員に対して、このようなリーダーシップを発揮していく必要があります。

Point社員の協力なしに経営計画はつくれない。
幹部のリーダーシップも重要だ。
経営のヒント
具体的な表彰内容は社員が決める

経営計画の中で、社長は積極的に表彰制度を設けると明記するのもよいでしょう。
ただ具体的な内容まで社長が決める必要はありません。何をした社員にどんな表彰をするかということは、むしろ社員に決めさせましょう。経営計画を動かすのは社員であり、全員の力でつくるものだからです。

社長は、細かいことはできるだけ社員に任せるようにします。ただし、「これだけ売ったら何パーセントのコミッションがつく」というような制度は、表彰でなく重要な人事制度のひとつですから、社長が決定します。

2012年 5月 6日

~事業年度の最初に発表会、四半期ごとに検討会を実地する~

経営計画は年単位で進める

経営計画には3年、あるいは5年くらい先までみすえてつくる中期経営計画もあります。しかし、その場合でも、まずは単年度計画を立てるのが基本です。
わかりやすいように、1月から事業年度が始まる会社(12月決算)で話を進めます。
1月の新事業年度が始まるときに、その年の経営計画を発表します。その2カ月から3カ月前に、社長は「来期はこれを目標にするぞ」という大きな経営方針を発表します。それに基づいて社員が、部門別の目標や個人目標、あるいは具体的な戦術を立てます。経営計画は社長だけでなく、社員も含めてみんなでつくるものだからです。それから部門間で計画や目標のすり合わせをして、全社の経営計画としてまとめ上げ、1月に発表します。
新しい事業年度がスタートしたら、3月末から4月はじめに経営計画の進み具合の確認と見直しをします。この反省会や検討会は四半期ごとに行います。
このような年間スケジュールで、経営計画を進めていくようにしましょう。

社員を表彰する場を作る

四半期ごとの検討会では、目標数値と実績の比戟、それから前年同期比など過去の数字と実績の比較をします。基本的にはこの2つの数字の対比で、会社全体や部門ごとの計画の進み具合を確認します。「ここまで達成できた」ということが実感できるからです。
もちろん、いつも計画どおりに進むとは限りません。そのときに悪い数字をみてしまうと、社員は「この会社にいて大丈夫なのか」と不安になってしまうかもしれません。そこで、前に述べた「ビジョン」が大切な意味をもつのです。社長自身の頭に常にあるビジョンを、反省会の場で改めて社員に訴えるのです。
もうひとつ、年問スケジュールの中で重要なのが、社員を表彰する場を多くつくることです。これは四半期の検討会ごとでも、あるいは半年ごとでもかまいません。
ささいなことに対する表彰でも、社員は充実感が得られます。そのことが大事なのです。年間スケジュールの中で、達成感や満足感を味わえる場を設けるようにしましょう。

Point1年間の経営計画を立てる2~3ヶ月前に、
社長は経営方針を発表しよう。
経営のヒント
顧客満足第一の百貨店がしていること

ノードストロームという「絶対にノーといわない」顧客満足第一主義で知られているアメリカの高級百貨店があります。ここでは店がオープンする前に、社員を表彰します。
始業前にみんなでそれを祝福すれば、とても明るい気分で1日の仕事をスタートできることでしょう。社員を表彰することには、想像以上に大きな意味があるのです。

お客様が喜んでくれるような心地よくなることを始めたりした社員は、どんどん表彰していくことをお勧めします。

2012年 5月 6日

~「戦略」や「目標」がない理念は、絵空事になってしまう~

ゴールがあることで人が集まってくる

経営理念だけでは、経営計画の目標は達成できません。経営理念を現実のものとしていくには、左の図のような過程をたどる必要があります。つまり、人は「ミッション」や「ビジョン」により集まってきます。何をやるのか、将来どうなるのかということが企業の原点に必要です。もちろん、それだけでは継続して黒字企業を維持することがむずかしくなります。そのため、そこに集う人と人の間の共通の価値観、つまりバリューが必要になってきます。しかし、これだけでは烏合の衆となり、何に、どのように、どれくらいの力を割いてよいのかさえわかりません。
そこで、ミッションをいかにして実現するのか、すなわち「戦略」を考えます。マーケティング戦略、プロダクション戦略、アカウンティング戦略……と、ミッションを達成するために、その時々に必要なことを考え、戦略を立てていきます。
そして最後に、目にみえる目標である「ゴール」を示す必要があります。ここでのゴールとは、単年度の目標のことです。ここまで明確になってはじめて、経営理念が大きな影響力をもつのです。

理念なき利益追求は会社を崩壊させる

戦略とゴールがなければ、経営理念 (ミッション、ビジョン、バリュー)も絵に描いた餅になってしまいます。
しかし逆に、経営理念がなくて戦略やゴールだけだと、会社はどうなるのでしょうか。バブル期に不動産を買いあさった会社が山ほどありましたが、これはまさにゴールを目先の利益だけに設定した典型的な例です。こうした会社は、本来の自分たちのミッションを忘れ、ビジョンとバリューを見失い、メンバーの意識や考え方もバラバラになってしまいました。
戦略やゴールは、経営計画の実現のために必要となるものです。しかし、どんな状況に置かれても、戦略やゴールだけにとらわれてはいけません。経営理念なき戦略や目先の利益追求は、会社を内側から崩壊させてしまうのです。

Point目標や戦略のない経営計画は無力で、
経営理念のなき経営計画は危険である。
経営のヒント
「ミッション」と「ビジョン」の特長

かつて「京都セラミック」だった会社が今は京セラになり、セラミックだけでなく電子部品、通信機器、デジカメもつくっています。化粧品のイメージが強いカネボウも、出発点は「鐘淵紡績」でした。このようにミッションは時代や環境によって変化します。

一方ビジョンは「人を動かす」力を持っています。アメリカ合衆国のケネディ大統領は、10年以内に月に着陸し、安全に地球に帰還する「アポロ計画」を発表しました。するとNASAには世界中から優秀な科学者が集まり、本当にビジョンを実現したのです。

2012年 5月 6日

~「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の中身を知っておこう~

何によって社会に貢献するか

経営理念は、次の3つの要素から成り立っています。

・ミッション……会社の基本的役割、使命
・ビジョン……将来の会社の姿や目指す方向
・バリュー……価値観や考え方

これらを明文化していない会社もたくさんあります。しかし、そういった会社が継続的に成長し続けるのはむずかしいでしょう。3要素を解説すると、ミッションは、その会社が何のために存在しているかということになります。必ずしも今やっている業務のことではなく、その業者を通じて、どのような役割を果たすのかという根源的な意味です。
次に、3年後、5年後、そして10年後に何を達成するのかという、将来におけるミッションの到達点を示すのがビジョンです。つまり、ミッションを明確にしていくと、将来のあるべき姿であるビジョンを描くことができるようになるのです。
そしてバリューとは、そこに集う社員たちの共通の価値観です。その集合が企業文化となります。

最優先すべきはバリューだ

経営理念の3要素の中でも、自分たちが目指すところを具体的に示すビジョンは、社員に最も感動を与えることができます。実際に、ビジョンを経営理念としている会社も少なくありません。
大事なのは、ビジョンを社長がことあるたびに繰り返し口にすることです。また、単にいい続けるだけでなく、言葉を文字にして社員が〝耳〟と〝目〟で理解してはじめて、ビジョンを現実化していくことが可能になるのです。
バリューは「行動に影響を与える考え方」ともいえます。社長と社員が、価値観=基本的な考え方を共有することによって、より大きな相乗効果を発揮できるのです。
ところで、ミッションとビジョンは変化していきますが、バリューは不変のものです。
そして経営理念の3要素のなかで最も重要なのが、このバリューなのです。これが企業から失われると、前述の「カオス」状態になります。
優良企業がバリューを見失った結果、消えていった例も少なくないのです。

Point
「バリュー」=「会社の価値観」が、経営理念の3要素の中でも最も重要だ。
経営のヒント
ミッションは会社の可能性を語る

たとえば引っ越し会社の社長に「あなたの会社のミッションは何ですか?」と尋ねます。「それはものを運ぶことだよ」と答えたら、現状の業務内容から発展できないでしょう。
「新しい住環境の整備をすることがうちの使命です」という答えが返ってきたらどうでしょう。
家具や家電製品の取り付け、AV器具の複雑な配置整備、近所の警察や学校、役所、商店街などの情報提供サービスなど、いろんなことを始めることが期待できます。
どちらが発展する可能性があるのかは、いうまでもありません。

2012年 5月 6日

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