決算診断編

~重要な数字の変化状況と、その理由を確かめよう~

決算書は過去と比べることに意味がある

決算書を一期分だけみても、会社の状況の変化は浮かび上がってきません。過去四期分の数字を比較することが非常に大切なのです。これは自分の体について調べるときと同じです。体脂肪率がこれだけあるから肥満気味だといわれたりしますが、人によって適性体脂肪率は違うものです。数字の変化を知ることで、はじめて今の状況がわかるのです。

会社の経営状況はすべて勘定科目に表れるので、まずは、社長が決算書をみる習慣を身につけることです。

決算書をみるポイントは2つあり、ひとつ日は収益性で、2つ日は成長性になります。したがって、単年度の決算書だけを眺めていても、答えはみつかりません。そこで過去の決算書を並べるわけですが、左の図のように、構成比や増減をみることによって、今の会社の健康状態がみえてくるのです。

増減の原因を必ず究明する

特に重要なのが、損益計算書の年次比較です。経営計画を立てる上で、まずはこれらを参考にするからです。ここで使っているのは、一般的な損益計算書を加工した「変動損益計算書」です。これを図式化すると115ページにある「ストラック図表」になります。この計算書で「構成比」をみると、売上高に対して変動費(売上原価)の占める割合である変動比率や、限界利益が占める比率である限界利益率がすぐにわかります。

まずチェックすべきは、売上高の増減です。減っている場合は現行商品の力が落ちてきているわけですから、その理由を探ります。新たな付加価値をつけるか、新規商品開発にかかる必要があるとすれば、そのための費用も捻出しなければなりません。

売上総利益は、通常は売上の変化に伴って増減します。ただ仕入の仕方を工夫することによって、売上が横ばい、もしくはマイナスでも売上総利益を増やすことはできます。

売上高や売上総利益が増えているのに、経常利益が横ばい、ないし下降だったら、固定費が増えていることになります。

設備投資などの戦略的な先行投資をした結果、減価償却費が増えたり、人件費や開発費が増えたりしたのであればいいのですが、ほかに問題があるようなら、その原因を究明しなければなりません。

Point
売上高が増えているのに、利益が減っていたら必ず原因を究明すること。

2012年 5月 6日

~貸借対照表の各勘定科目についても、四期分の推移を把握しておこう~

まず純資産の増減を確認する

四期分の貸借対照表については、左の図のようにまとめるとみやすくなります。一番右には前期に対する当期実績の増減分を入れ、数字の増減をみやすくします。

さて、主な勘定科目について、数字の見方を簡単に説明していきます。

[ 1 ] 純資産の推移

最初に、純資産の増減を見ます。
純資産は資本金、資本剰余金、利益剰余金の合計で、借金と違って返す必要のない資金(自己資金)です。中小企業では増資をする場合はほとんどないので、利益剰余金、つまり会社に最後に残った前期の利益が増えたときに純資産も増えます。よって、純資産が増え続けていれば、利益を出し続けていることになります。
一方、純資産が減っていれば、損失が生じていることになります。過去の利益や資本金を取り崩して返済にあてている状態ですから、これが続くと自己資本が減り続けます。最後にゼロかマイナスになれば、実質的に破産状態です。

[ 2 ] 現金預金(運転資金)の推移

一般的に中小企業では現金預金が主な運転資金となります。現金預金の残高をみると、経営状況も把握できます。極端な話、現金預金がゼロになると会社経営はできません。
現金預金が少なくなる理由として、売上が増えていない、変動費や固定費がかかり過ぎている、売掛金を回収できていない、買掛金の支払いに追われている、借入が多額で利息の負担が大きいなどのケースが考えられます。
売上や利益と関係なく、資金バランスの関係で現金預金が少なくなる場合もあります。
もちろん運転資金は減っているよりも増えている方がいいので、金額だけでなく増減もみます。前期より大きく減っていたら、原因を確かめるようにします。

[ 3 ] 借入金の推移

借入金が増えるということは、利息返済額も増えるということです。現金預金が減少する理由になるので確認しておきます。

[ 4 ] 売掛金・買掛金の推移

売掛金の増減は、損益計算書の売上高とあわせてみます。売上が伸びれば売掛金も増えるのが普通ですが、回収が遅れた結果として売掛金が増えると、現金ショートにつながる危険があります。
買掛金も損益計算書の仕入とあわせてみます。仕入が増えれば買掛金が増えるのが普通ですが、支払いが滞っているのなら問題です。
なお支払手形についても、買掛金と同様のことがいえます。

[ 5 ] 棚卸資産の推移

売上や利益がそれほど変化していないのに棚卸資産が増えていたら、デッドストックになっている可能性があります。在庫状況を確認しましょう。

Point
純資産、現金預金、借入金、売掛・買掛金、棚卸資産の四期分を比較しよう。
Point純資産、現金預金、借入金、売掛・買掛金、
棚卸資産の四期分を比較しよう。

2012年 5月 6日

~[1]-[11]の指標はとても大切なので、把握した上で対策を考えよう~

経営に負担をかけているのは何かを把握しよう

決算書の数字を利用すれば、[1]-[11]のことがわかります。どれも会社の状況を把握するために大切なものなので、活用をお勧めします。

[1] 預借率
借入金・割引手形に対する現金預金の割合。会社経営にとって重要な現金預金と借入金のバランスをみます。借入金を返せない危険性を判断するものといえます。
[2] 売掛金の回収日数
1日の売上高に対する期末の売掛金残高の割合。売掛金の回収にどれぐらいの日数を要しているのかをみます。売掛金の回収日数が長いほど資金負担がかかるだけでなく、不良債権化する傾向にあります。
[3] 在庫日数
1日の売上高に対する期末の在庫額の割合。在庫日数が長くなるほど不良在庫になります。また在庫が増えることは資産が増えることになるので、金利負担増を招きます。
[4] 借入金対売上高比率
売上高に対する借入金の比率をみます。借入金が適正水準かどうかを知るためにチェックします。
[5] 年間必要売上高
販売費および一般管理費(固定費)をまかなうために必要な、売上高の最低水準を知ることができます。
[6] 現金預金比率
売上高に対する現金預金の比率を出し、1カ月ごとにその推移をみます。現金預金の推移を知ることが経営には必要です。
[7] 売上総利益率
売上総利益が売上全体にどれだけの比率を占めるかをみます。経営が健全かどうかを知る上で非常に大切な指標です。
[8] 一人あたりの月間人件費
従業員の増加や賃上げなどによって人件費が増加すると、固定費の増加と売上総利益の圧縮につながるので、人件費の変動は毎月追いかけるようにします。
[9] 役員給与推移
たとえば、四期分を比較した場合、役員給与の増減があるか、あるいは未払いになっていないかどうかも把握する必要があります。
[10]仮払金
決算書に仮払金が残っていたらおかしいと考えます。もし計上されていたら、その中身を確認した上で決算書を見直さなければなりません。申告をお願いしている税理士さんからの指導がなければ、我理士さんを変えた方がいいかもしれません。
[11] 貸付金推移
貸付金がある場合は、誰に貸したものなのか、返済の見込みがあるのかどうかを常に確認します。回収見込みのない貸付金は、税理士さんに相談して対応しましょう。
Point
決算書の数字から、会社の状況について重要な改善すべきポイントがわかる。

2012年 5月 6日

~貸借対照表と損益計算書の数字から指標となる数値を算出する~

会社をみるポイントを知ろう

経営計画を考えるとき、決算書に記されているさまざまな数字の中で、どれに注目したらいいのでしょうか。
本書では 「収益性」「資金性」「安全性」「安定性」「生産性」の5つのポイントに注目します。そのポイントについてわかりやすく示す経営指標(数値)は次のとおりで、これらをみれば会社の体力がわかります。

1. 「収益性」 → 総資本経常利益率をチェック
効率よく儲けているかがわかる

2. 「資金性」 → 流動比率をチェック
返済能力に問題はないかがわかる

3. 「安全性」 → 自己資本比率
つぶれないだけの体力があるかがわかる

4. 「安定性」 → 安全余裕率をチェック
安定的に収入を得ているかがわかる

5. 「生産性」 → 労働分配率をチェック
人件費に問題はないかがわかる

それぞれのポイントについては、次からの項目で詳しく見ていきます。

どれも簡単に計算できる

これらの経営指標の算出方法は、左の図に示したとおりです。

たとえば収益性を示す「[1]総資本経常利益率」は、損益計算書の「経常利益」を「総資本」で割ったものです。「総資本」は貸借対照表の一番下の右側の「負債・純資産合計」(=「資産合計」) のことです。

資金性を示す「[2]流動比率」は、貸借対照表の左上にある「流動資産」を、右上にある「流動負債」で割ったものです。

安全性を示す「[3]自己資本比率」は、貸借対照表の「自己資本」を「総資本」で割ったものです。

安定性を示す「[4]安全余裕率」は、損益計算書の「売上高」から「損益分岐点売上高」を引いたものを「売上高」で割ります。損益分岐点売上高は、売上高とかかった費用がゼロの地点をいいます。

生産性を示す「[5]労働分配率」は、損益計算書の「人件費」を「限界利益」で割ったものです。限界利益は後の項で説明しますが、ここでは損益計算書の「売上総利益」とほぼ同じと考えておいてかまいません。

Point
5つの経営指標を出すのに、決算書のどの数値を使うのか知っておこう。

2012年 5月 6日

~経営指標をもとに、会社は稼いでいるのか、資金の心配はいらないのかを把握しよう~

「総資本経常利益率」から会社の収益性を分析

収益性とは、「元手に対してどれだけの利益を得ることができたか」ということです。会社の元手となるお金をすべて合計したものは「総資本」で、貸借対照表に「負債・純資産合計」として載っています。総資本に対して得られた利益の比率が大きいほど、収益性が高いことになります。ここでは営業外利益と営業外費用も算入した「経常利益」を使って、総資本に対してどれだけ利益があるのかをみます。

もし総資本経常利益率が1%未満だったら、元手をほとんど有効活用していない状態です。少なくとも元手に対して市中金利以上の利益を上げられなければ、会社を経営する意味がないといっていいでしょう。

総資本経常利益率は、一般的な企業では5%前後であれば普通といえます。

ただ、すべての経営指標にいえることですが、どの程度の数値が適正値なのかは業種や会社の規模によっても違ってきます。

「流動比率」から資金繰りの状態を分析

流動比率は、会社の健全性や資金繰りの状態をみるのによく使われます。内容は、「流動負債」に対する、1年以内に現金化できる「流動資産」の割合を示したものです。流動資産は「現金預金」「受取手形」「売掛金」などの当座資産と「棚卸資産」を合計したものです。流動負債は「支払手形」「買掛金」「短期借入金」などの合計です。

この数値が大きいほど、手元にある運転資金が多く、債務を返済する能力が高い会社となります。200%以上、つまり流動資産が流動負債の2倍以上なら、債務を2回返す余裕があるということです。

一方、100%を切ると負債の方が多くてこのままではキャッシュフローがショートする可能性が大きく、お金を補充しておかなければなりません。

さらに余裕資金について厳しくみたのが「当座比率」で、流動資産に対する当座資産の割合を出したものです。当座比率が100%以上あれば当座の資金面の心配はないでしょう。

Point
収益性は「効率よく稼いだか」、資金性は「返済能力があるか」を示す
経営のヒント
売上利益率でも収益性は見える

会社の収益性をみるし指標は、総資本経常利益率だけではありません。
売上に対する利益の比率でみることもできます。

たとえばA社が売上100億円で1億円で2000万円の利益があったとします。
一方、B社は売上1億円で2000万円の利益がありました。どちらが効率よく儲けたかは、利益を売上で割ればわかります。それが売上利益率です。

A社の売り上げ利益率は1%、それに対してB社は20%ときわめて効率よく稼いでいます。
A社は利益を得るために、経費をかけ過ぎている状態といえます。

2012年 5月 6日

決算診断編
格付から経営状況を理解しよう
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